“ブランド価値”を高める大学Webサイトの戦略

[ 編集者:シーライヴ株式会社    2017年04月27日    更新 ]

著者: シーライヴ株式会社 久保田浩嗣

[01]入り口は戦略にあり

 大学のウェブサイトの現場では、「デザインやシステムをどうするか?」「スマホ対応は?」「CMSの導入は?」「費用対効果は?」といった、具体論=戦術から突入することがしばしば見受けられます。

 このような具体的な戦術論の前に、それぞれの大学が抱えた課題や未来戦略を正確に抽出・網羅し、それらを大局的に分析して、全体構想を導き出すことが必要です。

 もちろん具体的な戦術論が不必要というわけではなく、このような前段の取り組みが、その大学の中長期のWeb戦略を左右するといっても過言ではないからです。

[02]Webサイトは“IT”ではなく、“メディア”という認識

 多くの大学の「現場」では、Webサイトが「メディア」であることを再認識する必要があると考えます。しばしば、IT(情報技術)として論じられることがありますが、それはWebサイトの一面を指しており、決して本質ではありません。Webサイトの本質は、あくまで「メディア」です。

 端的な事例をあげれば、1日にのべ5万ユーザが訪問し、20万ページが閲覧されているとします。これがリアル店舗や駅であれば、中堅クラス以上の来客数・乗降客数を抱えていることになります。

 つまり、それだけの接触とコミュニケーションがそのWebサイトでは実現していることになります。そのような「メディア」を野放図にするわけにはいきません。大学側がそのメディアをどのように育てていき、自学のブランド力・経営力に結びつけていくのか、それが極めて重要であることはいうまでもありません。

 そのため、具体的な戦術論の前に、大前提となる戦略が求められるのです。ここを見誤るか、あるいはそもそもスキップしてしまい、何も戦略をもたない状態でWebサイトが構築され、運用されていることがあれば、これはその大学にとって中長期的な損失でしかありません。

 この記事では、そうした視点から、この大前提となる戦略を改めてレビューし、大学業界のWebマスター(Webサイトの管理者)の一助になることを目的としています。

[03]戦略を組み立てるメソッド

 いま日本の大学ではさまざまな環境変化がもたらされています。少子高齢化はいうにおよばず、グローバル化、産官学連携・地域連携、高大連携、リベラルアーツ、生涯学習・社会人教育、ラーニング技術など枚挙にいとまがありません。

 それだけ多様なステークホルダー(利害関係者)に囲まれているといえます。これは、言いかえれば、これらの多様なステークホルダーに十分に理解促進・納得を与えるだけのコンテンツや情報が自学のWebサイトから発信されているのか、ということにつきます。これは大前提となる戦略のひとつといえるでしょう。

 さらに具体的に例をあげると、受験生向けの情報は手厚いが、保護者向けの情報が希薄では、当然バランスがとれておらず、一部の利害関係者のニーズに十分に応えきれていない、ひいては機会損失を招いている可能性が高いともいえます。

 いまはひとつの例を取り上げました。それでは、そもそも大学のWebサイトのパフォーマンスを最大化するための大前提となる戦略、すなわちこの記事の目的を果たすには、どのようなメソッドが有用なのでしょうか。

 これは大学ごとに抱える課題や歴史、あるいは市場背景などが異なるため一概に述べることは困難ではありますが、当社では主に下記のようなメソッドでグランドデザインを描くことが多いので、それを順に述べていきます。

[04]定量・定性データをそろえる

 「ビッグデータ」という言葉がもてはやされています。しかし、発想としては以前からありました。現在ではコンピュータのスペックが大きく向上したので、大量のデータを安価に処理することができるようになりましたが、各種のデータを集めてきて、アナリストが分析しようとする試みは昔から行われてきました。

 これはいまでも生きています。先ほども述べたようにWebサイトは大学にとっての「メディア」として、いまやきわめて重要な地位を占めています。それがどのように「見られているのか」ということは、まずはデータに拠る必要があります。ここを“感覚”や“主観”で終始しないことが、戦略立案においてきわめて重要であることはいうまでもありません。

 まずは、Webサイトのアクセスログ分析を実施することが最初の関門となります。すなわち『定量データ』を入手し、分析し、理解することです。

 具体的な例をあげてみます。

1.「売れ筋コンテンツ」が、昨対比でどのように変化したのか?

 これは、訪問者のニーズが何から何へ変化しているのか、それを探るのに一定の意味があります。ましてやニーズが変化したにもかかわらず、そのニーズがある分野のコンテンツが手薄であり(ページ数が少ない)、かつ、離脱率が高ければ、これは何らかの対策を打たねばならないという仮説が導き出されるでしょう。ただし、これは後でも述べますが、「数字は雄弁に語る」といいますが、その数字を誤って捉えてしまわないことが何よりも重要です。

 「直帰率」のスコアが想定よりも悪かった場合、すぐにそのページが悪いという判断に陥りがちですが、必ずしもそうとは言い切れないということです。どういうことかというと、そのページがきわめて短文で簡潔な情報が載せられているだけで、ほとんどの訪問者がそのページを見さえすれば「納得した」「用が足りた」のならば、十分に役割を果たしているともいえるからです。一方で、長文の情報が掲載されているページで、かつ関連するページにも遷移してもらいたかった場合で、そのページの「直帰率」や「平均滞在時間」のスコアが想定よりも下回った場合は、確かに改善の余地が十分に考えられます。また、このような判断とは別に、たとえ、そのページで訪問者が「納得した」「用が足りた」としても、別のページに遷移してもらえるよう、回遊機会を増やすためのページ構成の改善は必要かもしれません。

 上記のような事例を持ち出したのは、単なる数字にのみ心を奪われてしまい、実際に何が起こったのかというリアリティ(事実関係)を冷静に判断し、分析することを誤らないよう、警鐘を鳴らしたかったからです。

 世論調査やアンケート調査でも、そもそも母集団が過少であったり、選択肢の設計が誤っていたり、背景や社会情勢がまったく考慮されていないなどの問題点がたびたび指摘されています。つまり数字は決して「雄弁に語るわけでもない」ということです。これを肝に銘じた上で、データ分析を遂行する必要があります。

 実際には、すべての訪問者の真横に立って、それぞれの訪問者がどのような操作をして自学のWebサイトを閲覧したのか、直接的に観察することは事実上不可能です。「どうしてこのような結果になったのか」ということは、相当に先入観を排除して分析する必要があります。つまり、数字が語っているのではなく、数字に意図を与えてしまうのは人間であることを意識し、それによって分析結果が大いに左右されてしまうことに注意を払わねばなりません。定量データを扱うとき、この点はとくに意識する必要があります。

2.「キーワード」の変化をみる。

 業界にかかわらず、多くのWebサイトの流入の起点は Google や Yahoo! などの大手検索サイトに依拠しています。このキーワードは、訪問者のニーズのいわば起点となります。アクセスログデータにおけるキーワード分析のみならず、Googleにおける入力補助(サジェスト)の傾向を見ることも重要です。サジェストとは、Googleの検索窓に大学名を入力すると、自動的に第2ワード以降が選択肢として表示される機能です。
 このとき、アクセスログデータを内部データと定義すると、Googleにおける入力補助(サジェスト)のデータは外部データとして定義できます。この両者の比較分析が重要となります。Googleにおける入力補助(サジェスト)は別途データを入手することが可能です。そのとき、大学名の後に連なる上位の第2ワードにまつわるコンテンツが、自学のWebサイト内において十分に整備されているかということを、まずはチェックする必要があります。さらに、第2ワードにまつわる内部データのスコアを分析する必要もあります。ニーズを受け付けたあと、そのニーズに対して、Webサイト内でのユーザロイヤリティが平均以上のスコアであったかどうか、つまり、外部ニーズに対して、Webサイトの内部では十分に役目を果たせていたのかという検証です。

3.「事件」「イベント」との相関性を探る。

 GoogleAnalyticsには、「不意の変化」をキャッチする機能があります。これはアクセスログの集計結果によくみられる「ベスト10」「ワースト10」とは対極をなす機能です。絶対量ではなく、「変化の大きさ」をみる機能だからです。これを利用すると、たとえば普段は1日に数百程度のPVしかなかったページが、あるとき突然数千・数万PVなどに跳ね上がったときにアラートを発してくれます。まさに「桁違い」の変化を大量のページの中から知らせてくれるのです。これは非日常的な変化があったことを意味します。もちろんこの場合の多くは、何らかの外的要因(社会的イベントや事件)と連動しています。
 大学広報にとって、良いニュースもあれば、悪いニュースもあります。とくに事件報道の場合は、苦労しきりです。しかし、いずれの場合においても、自学と社会の間において、とくにWebサイトを通じてどのようなアクセスが起こったのかを検証することは、中長期的な広報戦略の材料として、とてつもない原石をあたえてくれているといえます。こうした取り組みができている大学は、市場の変化にも体質的に強いといえます。こうしたところにも定量データの活用方法があります。

4.地理的特性をみる

 GoogleAnalyticsでは、アクセス量と地理的情報(マップ)を重ねることができます。日本地図・世界地図という切り替えも可能です。これをもとに、自学の近辺のアクセス量、国内遠隔地からのアクセス量、世界からのアクセス量を計測することが可能です。
 たとえば関西の大学であれば、関東圏からのアクセス推移を分析することも可能ですし、大学のグローバル化という切り口であれば、世界各国からのアクセス推移を分析することが可能です。ここでも、絶対量だけにとらわれない視点が重要です。
 文部科学省が「留学生30万人計画」と旗手を振っても、日本の大学の国際化はまだまだ試行錯誤の感が否めません。アジア圏ではまだ見込みがあっても、対欧米など非アジア圏では緒についたばかりといわざるをえません(これは外国人労働者の受け入れとも関連しています)。
 だからこそ、Webサイトの定量データが思わぬ福音をもたらしてくれる可能性があるのです。たとえば、欧米圏からの留学生の増加を政策目標に掲げたとします。この場合、欧米からの、それも「ネイティブだと思われる」ユーザのみに絞って、そのセグメントのWebサイト内での動向を探ります。「何をしていたのか」と。もちろん国内からのアクセスデータに比べれば母数が圧倒的に少なく、正当な母集団とは言い難いところです。しかし、それでも少ない手掛かりから、彼らの行動を分析し、仮説を組み立てるところから戦略ははじまります。その仮説をもとに、PDCAサイクルの試行錯誤を積み重ねていけば、実際に、欧米圏からのアクセス数を倍増させることも実際に可能です。

5.悪いスコアに着目する。

 最後の事例はあえて「痛い点」を持ち出します。これまでに複数の大学のWebサイトを手掛けてきた当社のような立場では、ここで示している「良好な事例」と同じくらい「悪いスコア」にもお目にかかります。もちろんお客さまに戦略を提案し、Webサイトの運用を支援してきた当社にも相当の責任があります。ですから、どうしてもこうした「悪いスコア」は知らせたくないのが人情です。しかしながら、「悪いスコア」は一方で「正しい地図」を示してもくれます。戦略を誤って迷子になっているときに、本来あるべき正しい道順を示してくれるのです。
 こうしたリポートやWeb業界の専門記事では、成功事例ばかりがもてはやされます。しかし、そもそも大学というアカデミズムの現場を支えるWebサイトを構築し、運用する当社のような事業者は、この種の分析においてもアカデミズムな立場を一貫する必要があります。「良好なスコア」も「不良なスコア」も等しく並べて議論する必要があるのです。長所も短所も織り交ぜた分析ができてこそ、威力を発揮する戦略にいきつきます。ですから、このような定量データの分析現場では、あえて「悪いスコア」にも目を向ける勇気が必要であると思います。蛇足ながら、当社のお客さまは、そうした面にも理解をくださり、大変貴重な機会を与えてくださっています。本来大学のWebサイト経営とは、このような信頼関係と二人三脚で実現すべきであると、感謝を込めて信じています。