大学の広報とは

[ 編集者:シーライヴ株式会社    2017年04月28日    更新 ]

最大の課題は少子化

 日本の大学を取り巻く環境で最大の課題は、少子化です。これまで、進学率の高まりにより志願者数は横ばいで推移し、受験生にも大学にも、さほどの影響はありませんでした。

 ところが、2018年度入試から状況の変化が予想されています。専門学校も含めた進学率は8割に達して頭打ち。そうした中で、大学の総定員が変わらず、難関大学の志願者数にも変化が見られなければ、逆に大きく志願者数を減らす大学が確実に出るということです。

 生き残りに危機感を抱く大学は、ネット媒体や紙媒体を駆使して、その魅力をどうやって世間に発信すればいいのか。この一文が、本格的な少子化を迎え、対策が急務の大学広報担当者の参考になれば幸いです。

「入試広報」と「ブランディング広報」

 大学は、モノの生産・販売やサービスを提供している企業と違って、学生を教育する、つまり人を育てる役目を担っています。もちろん、研究や研究者の育成も大きな役割の一つなのですが、学生がいなければ成り立ちません。

 身の回りのほとんどのモノは、何らかの形で出自が分かります。生産企業名のタグがぶら下がっていたり、印刷されていたり。しかし、人間は出身校名をぶら下げて歩いているわけではありません。どの大学を出ているのか、雑談をしたくらいで分かるはずはありません。

 彼らが社会で活躍し、おおいに出身大学名をPRしてくれればいいのですが、それがなければ役員にでもならない限り、出身校名がメディアに露出したり、ネットの検索でヒットさせたりすることはないでしょう。

 だから、大学に人を集めるには、大学が発信することで世間に分からせる必要があります。あるいは、大学の業績がニュースとして流れることで、名を高めなければなりません。

 そこで、大学広報が脚光を浴びるのです。大学広報には大きく分けて、受験生、学生を集める入試広報と大学の名を高めるブランディング広報があります。大学広報10年の経験から言うと、入試広報は就職率などの実績やオープンキャンパスなど目に見える形でアピールできるので、効果が計りやすく、比較的やりやすい。

 一方、ブランディング広報は大学のイメージを一朝一夕に変えることができないので、時間がかかります。あの手この手の知恵を絞る必要もあるので、なかなかつらいものがあります。

 ブランディング広報で最も効率的なのは、大学のいい話をどんどんメディアが取材し、ニュースとして流してくれるケースです。典型例は、30年に及ぶ研究の成果でクロマグロの完全養殖に成功し、広報担当がその過程を定期的にニュースリリースの形で発信したあの大学です。

 次第にメディアの扱いが大きくなり、大学の認知度アップにつながりました。この成功を踏み台に次から次へとヒットを飛ばし、全国の大学で志願者数トップの座についたのは記憶に新しいところです。

大学のWebサイト

 総合大学や意識の高い大学では、少子化時代の生き残りをかけてWebの充実に力を入れ、複数の専任職員を置いています。入試広報と対外的な広報を一体化させ、全体としてブランディングの強化につなげています。

 しかし、それでも彼らの守備範囲が広報誌の制作、メディア対応などにまで広がっているため、Webに全力傾注というわけにはいかないのが実情のようです。

 紙媒体に比べ、Webの第一の長所は常にアップデートが可能だという点にあります。筆者が在籍していた大学では、紙媒体の広報誌は隔月刊。しかし、Webサイトのニュースは取材したその日のうちにアップロードしていました。

 スピード感が自慢でしたし、学内の評価もなかなかのものでした。残念ながら、外部からの評価は耳にしていませんが……。

 公式サイトのうち、ある程度はCMS(Content Management System)を使って、更新が可能でしたが、大学から原稿やデータ、図表などを制作会社に送って更新を依頼する部分も結構多かったように記憶しています。

 その場合、制作会社側の事情によって、更新までにタイムラグが発生することがしばしばありました。

 また、広報担当から事務局の全部署に、広報意識を徹底するよう呼びかけていました。

 ところが、頻繁に更新する部署は担当者のCMS利用スキルが向上し、スムーズに作業が進むのに対し、あまり更新の必要がない部署では、広報担当に問い合わせて方法を確認するということも多く見受けました。

 また、気付かないまま古いデータが掲載され続けることも目立ちます。何層にも重なったサイトの隅々まで目が行き届かないというのが実状なのです。

 こうしたことから、大学側と制作会社との協力態勢を密にしたり、CMSに一工夫加えたりしてほしい、といった思いが募ったものです。

大学サイトの未来

 大学にはスクールカラーがあります。エンジや紫紺、濃紺、ライトブルー……。ラグビーなどスポーツの試合では、観客席がはっきりと色分けされます。

 同様に、公式サイトもスクールカラーを基本トーンとして、統一感を出している大学が多いようです。そうしたカラーに沿って、デザインも工夫します。

 また、どの大学にも共通するのは、訪問者の属性による窓口を分けていることです。分け方は大まかに、▽受験生▽在学生▽保護者▽中学・高校の教員▽企業・一般――といったところでしょうか。

 入試広報、学内広報、対外広報、出口(就職)対応など、きめ細かく対応していますよ、と強調しているわけです。それぞれのタブをクリックすると、受験生ならオープンキャンパスや入試の情報、在学生なら履修登録や学生生活などが次の画面に登場します。

 きめ細かさは評価できますが、その対応をとったことで満足していてはいけません。それがどう利用されているのか、どのページにどんな年齢層が訪問しているのか、などを分析し、改善につなげていく不断の努力が必要です。分析結果によって改善点が浮き彫りにされ、進むべき道筋が定まってゆくのではないでしょうか。

 日々アップされるサイト上のニュースと対外広報がうまくリンクすれば、ブランディング広報として効果を上げる可能性があります。つまり、サイトに載せると同時にニュースリリースなどの形で、メディアに発信するのです。

 大学担当といっても、いくつもの大学をカバーし、大方はメーンの仕事は大学以外というケースが多いはず。大学の教職員同様、記者たちだって忙しいのです。大学のサイトをチェックしてくれていると思うのは間違いです。

 イベントなどの開催情報を事前に、ニュースリリースとしてサイトにアップしている大学がありますが、「こんなことをしたんだぞ」というニュース提供も必要です。

 広く伝えたい、メディアに取り上げてほしい出来事や業績であるならば、サイトにアップすると同時に、必要な情報は記者の手元にも同時に届くシステムがあったら……。大学広報在籍中はこんなことも夢想したものです。